「カワイイ」カメって？

しばらく中本賢さんが朝日新聞に、ガサガサ獲りの多摩川エッセイを書いておりましたが、その中でカメについても書かれておりました。ペットから逃げ出したカメで、野性化してしまったものが、良く例の玉網のガサガサ獲りでとれるそうです。

さて、縁日で売られようと、アマゾン川で生息しようがカメはカメ。いうまでもなく、トカゲと同じ爬虫類です。
ところが縁日ではゼニガメやミドリガメが「カワイイ」といわれて、買われていくわけです。さてその「カワイイ」とはいったい何をさして言っているのでしょう？

おそらく小動物、すなわちその「小ささ」に愛らしさを感じて買っていくのでしょう。この縁日の光景はつい最近、昭和４０年代までよく見られたものでした。

売られていたのは最初は「ゼニガメ」。これは甲羅の形がほぼ円形に近く、古銭のように見えることから、この愛称がつけられました。

でも、そのうちに縁日は新手に人気が移りました。「ミドリガメ」がそれです。アメリカのミシシッピ河の中下流域が原産です。これは甲羅や肌の色が鮮やかな黄緑色をしているため、こう呼ばれました。

しかもゼニガメなどの日本種に比べますと、いじくり回しても首や手足を引っ込めて「石」になることも少なかったので、当時の子供たちには人気が高かったような気がします。

オトナになるとポイステ

じつはどちらも生物学上は正しい呼称ではなく、ゼニガメは「イシガメ」。ミドリガメは「ミシシッピアカミミガメ」と呼びます。そしてどちらも縁日サイズが成人サイズではなく、縁日のは単に生まれたての子供たちが並べられているわけです。

イシガメ、最近は姿を消しつつある。

米国にある、ミドリガメ孵化センターでは孵化時期をコントロールしていて、日本で店頭に並ぶ頃にち、ょうど良い大きさである３cmほどになるように、温度や飼料を調節して出荷しているわけです。

ということは、子供はやがてオトナになっていきます。イシガメで甲羅長が２０cm、ミシシッピアカミミガメで２５cmにもなると、あの幼年の愛らしさは全く無くなってしまいます。

そのペットとしてのもっとも大事な特質である「小ささ」を失った彼等は、やっかいものとなって、次々と都市部の川や公園の池などに捨てられてしまいます。そういうカメが野性化して、大きくなったのが冒頭に取り上げた多摩川のガサガサ亀なのです。

オトナになるとポイステ

鶴は千年、カメは万年ともいわれるように、一般的に彼等の寿命は長い（３０～５０年ほど）ので、ある程度の環境さえ整えれば、死んでいくよりもポイポイ捨てられる数の方が多くなるので、彼等は増えていくという図式です。

ただイシガメは汚染に弱く、その分クサガメが増えているようです。昭和４０年頃には、近くの川や池でも、既にクサガメの方が多かったような気がします。そのころはクサガメの子供も「ゼニガメ」として売られだしました。クサガメは臭い亀という意味で、環境対応力はあるのですが、四肢の付け根から発するにおいが強いので敬遠されます。

クサガメ。外見上の違いで顕著なのは、甲羅上に三本キール（山脈）がある点。イシガメは真ん中に一本だけ。縁日では輸入物が多い。見分け方は甲羅の文様の境の線が黄色いのが輸入物。

それから嫌われものとなったのは、ミドリガメ。昭和５０年代後半に、サルモネラ菌の輸入媒体として問題となって、一気にその辺の池や河に捨てられてしまいました。

小生がハナタレ小僧だった頃は、いつも一匹はカメが庭に居て、飼うともなしに飼ってました。大雨や洪水のたびに流されたり、勝手に泳いで出ていったりしてましたが、そのうちにまた溝伝いに家の前まで戻ってきてました。

カメに帰巣本能があったのかどうかは今もって不明ですが、不思議な話です。ミドリガメも何度か飼いましたが、これはすぐに死んでしまったり、逃げ出してしまったりで、あまり印象には残っていません。

日本でイバっているルイジアナタートル

病原菌騒動のまえまでは、ミドリガメの人気は結構高く、一時期は年間百万匹ものミドリガメが米国から輸入されていたそうで、（これはもちろん世界一の輸入量）これらの成体はほとんど捨てられて「ノラガメ」として野性化しているはずです。

彼等は在来種より、汚染や食性などの環境対応力が強く、今や日本全国津々浦々で、ミシシッピアカミミガメが優勢固体として君臨しております。東京都の石神井公園や亀戸天神の池はカメが多いことで有名ですが、いい日向ぼっこ(甲羅干し)の場所を押さえているのは、全てシシッピアカミミガメです。

甲羅干しは変温動物であるカメにとって、体温を上げてエンジンを掛けたり、消化吸収を促進したり、固い甲羅を維持するためのビタミンＤ補給、はたまた甲羅に着いた苔やヒル、寄生虫を駆除するために非常に大切な行動なのです。

ミシシッピアカミミガメは最大３０cmにもなるため、クサガメやイシガメよりも大きいうえ、ワニから逃げるために、もともと四肢の筋力が発達しているので、クサガメやイシガメを押しのけて良い場所を占拠してしまう訳です。

ミドリガメは縁日で売っている３センチからほんの数年で２０センチになってしまいます。買う場合はあとあとまで責任をもって飼って頂きたいものですね。

なお、これに伴う在来種への影響や、環境への生態的影響については、まだほとんど調査されていないはずです。時間があれば取り組んでも、面白いテーマのような気が致します。

カメは無弓類と呼ばれ、爬虫類では最も古い型にはいります。地球の歴史が４６億年、海の原始生物誕生からは３６億年、そして陸上へ生物が上がって来たのは４億年前のことです。

爬虫類の始まりは３億年前で,カメの始まりはそのあと２億１５００万年前とされております。驚くことに、この時から今日まで基本的な形態(甲羅)はほとんど変わることなく続いている貴重な生物種です。

初めてのカメが何故甲羅を持っていたのかは、今なお解明されておりませんが、あらゆる外敵や環境に対して「甲羅」という存在が極めて有効な防衛形態であることは、この種が生き延びてきた歴史をみれば明らかなことです。

なお甲羅は皮膚の変化したもので、背中側を背甲（はいこう）、下を腹甲（ふくこう）と呼びます。甲羅の上の文様は角質板といって、爪みたいなものです。