小生が住まうのは多摩丘陵の一角。丘陵というだけあって、ちょっとした尾根があちこちにあります。この尾根筋は林道ポタリングをすると、登ってさえしまえば、眺めだけでは無しに、とっても楽しいのですが、今回は趣向を変えて、その尾根の足元散策です。
多摩丘陵に散らばっている、幾つもの尾根のふもとには谷戸(小さな流れ)が出来ています。尾根を降りてきた表層水と湧水が集まって出来た谷戸には、そのままドブ川として消えてしまうものが多いですが、いくつかは、次第に支流を集めながら太くなって、ちゃんとした河川になって流れていきます。拙宅の近所には、そんな小河川をあちこちみかけます。自然観察とポタリングで、そのいくつかをご紹介してみようと思っております。
拙宅のあるところは町田市の北端近く、あの白洲次郎の住んでいた武相荘があって、ちょいと名の知れたところですが、要は昔の溺れ谷の一角です。家の北側には、川崎市との境界になっている小高い尾根があります。この尾根伝いに北上していくと、やがて分水嶺があります。その北側は多摩川水系、南側は鶴見川水系になっているようです。麻生川、片平川、真光寺川などの小河川が鶴見川に向けて南下。北には三沢川が多摩川めがけて北上しています。
三沢川：
関東の河川で、北上するパターンは珍しいので、まずはこの三沢川からご紹介して行きましょう。三沢川のみなもとは川崎市の黒川付近だと思っておりましたが、行ってみると、川筋自体は、どうももう少し先まで伸びているようです。稜線で町田市(小野路)と多摩市との境界にもなっているようなところです。
余談ですが、この稜線裏手の小野路（旧道）は、チャリの坂道トレーニングコースとして、よく使っております。普通の坂道は登るにつれて、勾配は緩くなっていくものですが、ここは全く逆。スリーナインの発射台よろしく、どんどん傾斜が増してきます。しかもカーブを曲がった先に、ぐんと勾配がＵＰすると来てますので、これは心理的にも結構堪えます(笑)。
閑話休題
さて、三沢川のみなもとは、多摩丘陵の稜線に挟まれた谷戸田の奥にある、幾筋ものちっちゃな流れが集まって始まっております。鶴見川のように、ちゃんとした泉のようなものがあるわけではありません。みなもとが曖昧なのですが、三沢川延長は10.2kmとか云われておりますが、恐らくどこかに計測上の起点がちゃんとあるのでしょう。
それはさておき、この辺りの谷戸をチャリで走ると、ひなびた山里の雰囲気がムンムンで、本当にすぐそばまで住宅地やマンションが迫っている地域とは到底想像できません。この風景は、いつまでもずっと残しておいて欲しいものです。
黒川一帯は、川崎市が特別緑地保全地区として指定しておりますし、尾根筋には、大学のグランドや農場、変電所とかがあって、おそらくは大規模な宅地開発などは行われないと思われますが、小規模な、ゲリラ的乱開発は要注意です。手遅れにならないように、やはり地域住民が目を光らせていくしかないのでしょう。
面白いのは、日和見ノートにも紹介いたしましたが、溺れ谷の中に、ちっちゃな水力発電所（柿生発電所）があって、相模湖から川崎市までの導水管の、黒川付近の落差(12ｍ)を利用して、小規模ながら発電(最大出力 680kW)を行っているようです。なにぶん飲料用水なので、水車タービンも油などが漏れない構造になっているそうです。こんなにひなびた谷戸田の中に水力発電所、というアンバランスが何ともおかしいです。
黒川地区(川崎市麻生区)を流れ始めた三沢川は、まだまだ農業用水路のようなものですが、流れは澄んでおり冷たいです。川底にはまだ腐植の進まない黒ずんだ落ち葉が堆積しています。黒川という地名も、三沢川のそんな流れを取ったと云われています。用水路っぽい流れは、京王線の線路をくぐったあたりから、小河川の様相を呈してまいります。市域も稲城市に入ります。
若葉台団地がそびえ立っておりますが、鶴川街道を挟んだ反対側は、ガソリンスタンドとか工事用土砂を扱う業者とか、埃っぽいエリアです。三沢川は深い川床を形成し谷戸田を削って蛇行しています。川筋は深く、土手や橋からは5〜6ｍ下を流れています。水は澄んでおりますが、水量も少なく浅いので、魚がたくさん棲めるような感じではありません。
鶴川街道を縫うように蛇行している三沢川も、駒沢女子大の下を過ぎたあたりから遊歩道が両側に整備されております。ポタリングならば、歩道も細く交通量の多い鶴川街道を避けて、こちらを走ったほうが景色もいいのでオススメです。ただし、例によって無粋なバイク止め柵が、いたるところにありますので、引っ掛けないように注意して走りましょう。(小生自身、ここでペダルを引っ掛けて一度激しく落車しています)
三沢川の特徴なのか、落差が大きいこともあるのか、小河川としては、実にたくさんの堰や落差工が作られております。堰/魚道マニア(？)になりつつある小生としては、たくさんある堰に目移りして非常に忙しいです。
稲城駅の近くまで来ると、この規模の河川では立派すぎる親水護岸なども作られていて、近所の人たちの憩いの場となっているようでした。見たところ、水質も悪くはなく（鶴見川とは雲泥の差）暖かくなれば、大勢の人たちでにぎわうことでしょう。
この規模の河川としては立派な親水護岸
右岸には小高い丘「南山」がそびえております。最近ここでの大規模宅地開発が行われ始めており、里山と自然環境を守るための運動が、あちこちで進められております。このような時期に、貴重な里山を丸裸にしてまで、広大な住宅地が本当に必要なのか、かなり疑問です。背景には生産者・地権者の相続問題、都市部農村の後継者不足など、根深い問題が色々ありますが、行政で解決できることはまだまだあるような気がします。
よみうりランド駅を過ぎた辺りでまた線路をくぐりますが、この右岸には小高い山がそびえています。かっての稲毛氏が築いた小沢城址です。この山頂に穴澤天神社があります。崖下には祠のある洞窟などがあって清水が湧き出ています。ここでもペットボトルを持ったたくさんの人がおりました。美味しい水なのでしょうか。
穴澤天神社の祠
神社を過ぎると、再び川崎市に入ります。同じ川崎市でも、こちらは多摩区になります。かって小生が11年間住んでいたエリアです。住んでいたのに苦言をするのは、一寸はばかりますが、川崎市に入ると道路は、直ちにグレードダウンします。川沿いのチャリ行も、橋があるたびに激しいアップダウン。走りにくいこと、この上ありません。三面カミソリ護岸になって、両岸には堤防が築かれています。
これは三沢川がかって幾度も氾濫した名残でしょう。いまは城下地区から、新三沢川が作られ、そちらが本川となって多摩川に注いでいます。（旧三沢川は崖線に沿って、細流のまま東進し、二ヶ領用水に合流します)
新三沢川沿いに進んでいくと、やがてＪＲ(南武線)を過ぎます。ここでは二ヶ領用水と交差するのですが、面白いのが河川の立体交差になっている点です。二ヶ領用水が、三沢川の下を潜って流れています。住んでいる魚たちにどんな影響があるのか分かりませんが、小生のガサ入れ調査の結果では、雑っ魚についてはトンネルはほとんど影響がないようです。トンネル前も出口も同じぐらいのオイカワやヨシノボリが確認されました。
そして中野島取水堰の下手から多摩川に注いでおります。稲城市内を流れていたときには感じなかったドブ臭が、ここではかなりします。最後の数キロで、三沢川は相当に汚されてしまったということでしょうか。上流側にはいろいろな魚道付きの堰があって、遡上魚には配慮されているのですが、肝心要の最下流域が、ここまで汚いと、そもそも魚が入っては来ないでしょう。河川整備はトータルで考えなくては、なかなか効果が出ないということを知るためには、悪い意味で「良いサンプル」となる河川です。
多摩川吐き出し口「臭いよ」
川崎市多摩区内を流れる三沢川下流域には、たくさんのゴミが捨てられています。破れ窓理論などにもあるように、ゴミを捨てないことから始めれば、河川そのものに人々の目が行くことでしょう。今の三沢川はまったく逆、目を背けたくなるような状況です。ちっぽけな三沢川を見るだけでも、色々なことが分かってきます。
片平川・麻生川：
さて、拙宅の裏山というか、川崎市との境界稜線を越えた谷戸に流れているのが「片平川」です。この尾根付近には、サッカーで有名な桐光学園などもありますが、なんと云っても目玉はフロンターレの練習グランドでしょう。チャリでグランド脇の道もよく走るのですが、週末早朝のためか、チームの練習光景にあたることはめったにありません。
すぐそばのフロンタ練習場
みなもとは稜線下の細流で暗渠になっております。崖線に沿ってしばし北上し、大きくヘアピンカーブしてから顔をみせ、また崖線に沿って南南東に流れて、柿生駅近くで北から流れてきた麻生川に合流するまでの、たった延長3.4kmしかない小河川です。この付近は溺れ谷となっていますが、区画整理が進んでいて、どんどん宅地化している一帯です。
整備されたつまらん護岸
片平川は流量もたいして無く、それ自体には魅力に欠ける河川ですが、護岸も整備されていてチャリでのんびりポタリングできます。ところが、川が短いので、チャリですと、あっという間に麻生川にぶつかって終わってしまいます。また、たいした勾配がないので、堰や落差工も無機質なやつが若干あるだけ。堰マニアの小生にとっては楽しみがないですし、この勾配だと、大雨が降ると尾根からの水が一気に入り込んで、水かさがあっという間に増しそうです。
柿生駅付近から下は、一級河川・麻生川として流下し、下麻生付近で鶴見川に合流します。麻生川は9.7kmありますが、みなもと（川崎市麻生区と稲城市平尾の境界付近）から、鶴見川の合流部に至るまで、その殆どを市街地を流れるので、この川も普段はあまり魅力はありませんが、途中、ソメイヨシノの並木が続いているので、春先だけは花見客でにぎわう名所でもあります。
桜並木と麻生川
鶴見川への合流地点には、親水護岸や休憩スペースなどがあって、ポタリングの帰りにへばったときに、良くここで休みます。中型ゴイが多いので、一度コイフライでもやろうかと思っていますが、目立ちそうなので躊躇しています。
鶴見川への合流部、ポタ休憩場所
真光寺川：
たった2.2kmしかない川ですが、拙宅にもっとも近く、かつ気に入っている川が真光寺川です。基本的には両面護岸の小河川なのですが、川床は自然の岩盤になっていること、適度に落差工があること、通常は降りられませんが低水敷があること、広袴には広大な調整池があること、そして何より良いのは雑っ魚が多いことなどです。
話では、この川は以前はかなり汚れていたようですが、流域の人たちの尽力で、今のようなオイカワの住むような河川になったということ。小生のガサ入れでもヨシノボリ、オイカワ、モツゴ、コブナ、タモロコなどがたくさん採れました。広袴調整池ではバンやカルガモ、流域にはハクセキレイやジョウビタキ、運がよければカワセミなどにも出会えます。
広袴調整池、水鳥と雑っ魚がたくさん
広袴調整池から上流は、一旦は暗渠化しますが、みなもとは町田市のはずれ真光寺町の谷戸。稜線の向こうは、三沢川の源流となる谷戸があります。チャリを再開した動機のひとつに、この辺りの谷戸を、タイヤの太いチャリで巡ってみようと思い立ったことがあります。最近は谷戸巡りよりも、尾根越えや尾根筋のシングルトラック攻略に入れ込んでおりますが、のんびりとした谷戸巡りもまた良いものです（タイヤは泥だらけになりますが）。
真光寺川の良いところは、ところどころに親水護岸があるので、川に近づけることです。広袴調整池は周遊できますし、その下流でも鶴川街道ＧＳ裏にある親水護岸と、鶴見川合流部にある護岸は、休日ともなると誰かしらかはのんびり座っています。こんなちっぽけな川でも、流域の人にとっては大切な空間だということでしょうか。
鶴見川への合流部
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